煩悩とは
煩悩は仏教の用語の一つで、身心を乱し悩ませ智慧を妨げる心の働きを言います。
仏教では煩悩は六種あるとされ、これを六大煩悩といいます。
- 貪欲(どんよく)欲望や執着
- 瞋恚(しんに)怒り
- 痴(ち)物事の道理をわきまえない
- 慢(まん)自らを高く見る
- 疑(ぎ)仏教の真理を疑う
- 見(けん)邪悪で誤った見解
よく知られる108つの煩悩は、これらの六種類の中にカテゴライズされます。
例えば、貪欲には食欲、性欲、金銭欲、名誉欲、権力欲、楽欲などがあり、瞋恚には怒り、憎しみ、怨恨、嫉妬、恨みなどがあります。
私たちは人生を通じ、さまざまな事に悩み、心を乱し、苦痛や苦労を経験します。これは煩悩が人生を覆っていることの証左であり、断ち切ることのできないものです。
煩悩と快楽
煩悩は欲望や快楽を引き起こす要因としても現れます。欲しいものを手に入れたり、快楽的な経験をしたりすることで、煩悩が一時的に満たされることがあるでしょう。
しかし、この満足感はしばしば一時的であり、持続的な幸福感を提供しません。ただただ煩悩に振り回されてしまえば、このような快楽と苦痛の往復運動に陥る事になります。
煩悩と理性の調和
煩悩に振り回される心は、理性によって調和することができます。理性は、煩悩に支配されない自己制御であり、深い洞察力を発揮します。この理性の働きによって、人は持続的な幸福感を追求する手助けを得るのです。
理性的な喜びと、両者のバランス
実は煩悩自体が問題なのではなく、煩悩の発する欲が過剰になる事が問題なのです。この過剰な欲を抑制するのが、理性の働きです。理性的な選択や価値観は、煩悩の一時的な欲望を超えた喜びをもたらすことを可能にします。
例えば、自己成長、他者への奉仕、社会貢献などの活動は、一時的な快楽を超えて、持続可能な幸福感をもたらすと言われます。価値ある目標に向かって努力することは、深い充足感や精神的な満足感をもたらすことがあるでしょう。
一方で、禁欲的になりすぎたり、煩悩に対して極端に否定的になることは、全体の調和を失う可能性があります。煩悩とは、私たちの人間性の一部であり、自然な心の働きであり、与えられた能力でもあります。
人生において、煩悩と理性のバランスが重要です。完全に煩悩を排除しようとせず、煩悩の働きと調和しながら、理性的に行動することが大切です。
煩悩とCXデザイン
CXデザインは、顧客の体験を向上させることを目的としたデザイン手法です。顧客の体験を向上させるためには、顧客の欲求やニーズを理解することが重要です。
煩悩は、人間の欲求やニーズを象徴するものと言えます。CXデザインでは、煩悩の働きを理解することで、顧客の欲求やニーズをより深く理解することができます。
例えば、貪欲の煩悩を理解することで、顧客が新しいものを求めている理由を理解することができます。また、瞋恚の煩悩を理解することで、顧客が不満や不快感を感じている理由を理解することができます。
また、CXデザインは、煩悩の働きを理解するだけでなく、顧客の理性的な欲求にも応える必要があります。煩悩の働きを理解し、理性的な欲求と調和させることで、顧客の満足度を高め、より良いCXを実現することができるでしょう。
色即是空|体験とは空である
色即是空とは、色すなわち空、つまり「すべてのものは実体がなく、空である」という意味です。これも仏教の重要な概念のひとつです。
それ自体が実体を持たない「体験」は、色即是空の空であると言えるかもしれません。
「色」(しき)とは
物事の外見や形、物質的な特性を指します。具体的な形や色、物理的な属性を象徴しています
「空」(くう)とは
空虚さや無常性、実体のなさを表します。物事や現象が永遠に変化し、本質的には実体を持たないことを指摘しています。
体験はどこにあるのか
私たちが体験することは、すべて私たちの心の中で起こっています。何かを見たり触ったりすると、それは私たちの脳で認識され、その知覚や認識がを動かし、体験として現れます。
私たちが何かを感じる、何かを思う、何かを経験する、そのすべては、私たちの心の中で起こっていることです。
私たちの心は、常に変化しています。何かを感じたり、何かを考えたりするたびに、私たちの心は変化します。そのため、体験も行動も常に変化しています。
このように、体験は、私たちの心の中で起こる、変化する現象であると言えます。そのため、色即是空の空であると言えるでしょう。
空即是色|体験こそ実体
次に、空即是色です。
空即是色とは、「すべてのものは空であり、空であるものこそが実体である」という意味です。空とは、実体がない、変化するという意味でした。これこそが実体だ、というのですね。
ちょっと整理して考えてみましょう。
体験は、私たちの心の中で起こる、変化する現象です。そのため、体験は空(実体がない)と言えます。
しかし、空即是色では、空であるものこそが実体であると言っています。つまり、体験は実体がないかもしれませんが、それこそが私たちにとってかけがえのないものです。
体験を通して、私たちは世界を知り、自分自身を知ることができます。そして私たちは成長し、変化することができます。
体験は空であるかもしれませんが、私たちにとって、かけがえのないものです。
本質に気づかぬ人|色は見えるから見る。空は見られないから見ない
色(しき)は視覚的な要素であり、私たちの目で直接認識できます。一方、空(くう)は視覚的には捉えにくく、目で見ることができません。この視覚的な違いは、CX(顧客体験)デザインの理解や実践においても一般的な問題として現れます。
CXデザインは、顧客が商品やサービスを使用、体験、評価する過程全体を考慮に入れるデザインアプローチです。しかし、顧客の体験は視覚だけでなく、感情、認識、インタラクション、フィードバックなどの多くの要素から成り立っています。こうした要素は目に見えないものであり、その多くは顧客の内面や感情に関連しています。
にもかかわらず、私たちの社会は実体的に動いているように「見え」、実体に意識を奪われてしまいます。また、どちらか一方が必ず「正」であるとする白黒思考(二分法、二項対立思考)も、目に見えない実存を見失う原因のひとつです。
顧客体験に関心があっても、目に見えないものであるから捉えられない。したがって目に見えるものばかりを優先してしまい、結果的に「目に見えない実体」が一向に育たないという現象は極めて一般的です。
「ブランディング」に関しても同様の傾向があります。
色と空を重ね合わせに認識する
CXデザインやブランディングの難しさは、視覚的な要素と非視覚的な要素を調和させ、顧客の感情や期待を理解し、それに基づいてサービスやプロダクトをデザインする必要があることにあります。こうした非視覚的な側面を適切に捉え、視覚的なデザインに反映させることは、良いCXを提供する鍵となります。
色と空の話になぞらえれば、これは色と空を重ね合わせに認識するという事になります。
重ね合わせに認識するというのは、量子力学による量子の二重性についてのアナロジーです。
量子の二重性とは
量子力学において、量子は粒子としても波としても振る舞うことができます。これは、量子はどちらか一方として捉えられるのではなく、粒子と波の両方の性質を持つことを意味します。この波動と粒子の性質を合わせ持つことを二重性(重ね合わせ)と表現しています。
二重である、重ね合わせである、とはどういう事か
ここで、波動と粒子の性質を両方持つとはどういう事か説明するために、有名な二重スリット実験をご紹介します。
二重スリット実験
二重スリット実験(Double-Slit Experiment)は、量子力学における基本的な実験の一つであり、波動性と粒子性の二重性を示す実験です。この実験は、光や電子などの粒子が、二つの狭いスリットを通過する際の振る舞いを調べるものです。
以下が、二重スリット実験の基本的なアイデアと結果です。
基本的な実験の概要
二重スリット実験は、光源から発せられる光や、電子銃から発射される電子などの粒子を、物質的な障害物に設置された二つの狭いスリットを通過させる実験です。通常、この障害物は光学的な装置や電子ビーム装置を使用して制御されます。
予想される結果
古典的な物理学では、粒子はスリットを通過し、背後のスクリーン上に二つのスリットに対応する位置に到達し、二つの明るい帯域(スリットの位置)が形成されると予想されます。
驚きの実験結果
量子力学の驚くべき結果は、実際の実験結果です。実験において、粒子がスリットを通過すると、背後のスクリーン上に干渉模様が現れます。これは、波動性が現れていることを示すもので、スリットからの二つの波が干渉して明暗の帯域が形成される現象です。
不思議な不思議な観測の影響
驚くべきことに、粒子が観測される(どのスリットを通過したかが観測される)と、干渉模様が消失し、代わりに古典的なパターンが現れます。つまり、観測によって粒子は粒子性を示し、波動性が失われるのです。
この実験は、波動性と粒子性の二重性が量子粒子に適用されることを示す鮮明な証拠であり、量子力学の基本原理の一つとされています。
別の状態が重ね合わせに存在する
二重スリット実験を含むさまざまな実験を通じて、量子力学の基本的な特性の一つとして「波動と粒子の二重性」が確立されました。これは、量子粒子(例: 電子、光子)が波動性と粒子性を同時に持つことを意味します。
また、粒子の状態を観測しているときは波動の状態を正確に観測することはできず、波動の状態を観測しているときは粒子の状態を正確に観測することが出来ません。
これは両方の状態を同時に観測することはできないが、粒子と波動が重ね合わせに存在していることを示します。
再び色即是空
さて、色即是空/空即是色では、色は見えるもの、空は見えないものでありながら、実体と実存としてひとつであるようです。目に見える物質的な側面と、目に見えない心の側面が重ね合わせに存在すると考える事ができ、量子力学における量子の二重性と似ています。
念のためにお伝えしておくと、このアナロジーは、物質と非物質、形而上学的な概念と物理的な実体の関係を考える試みです。あくまで比喩的なものであり、物理学的な波動粒子二重性と同じように正確なものではありません。
色は粒子
物質的な実体を持つものとして、「色」を粒子と捉えます。具体的な色は物質の性質や振る舞いに関連しており、消費財や広告や行動など、目に見えるものとして認識されます。
空は波動
情報、意識、感覚などを波動的な特性を持つものとして考えます。
これは「空」が物質的な形態を持たない非物質的な存在であるという視点と整合的です。感情や思考、文化的な情報などが空間内で波動として広がり、私たちの知覚に影響を与えると考えられます。
観測と相互作用
色(粒子)と空(波動)は相互作用すると考えます。たとえば、私たちの視覚によって、消費財や広告が認識されます。そして感情や意識に作用し、態度を変容し、私たちの行動という目に見える状態に影響を与えます。
CXデザインに還る
同様に、CXデザインやブランディングの難しさは、視覚的な要素だけでなく、非視覚的な要素(感情、期待、価値観など)を考慮に入れる必要があることにあります。顧客エクスペリエンス(CX)を提供する際、単に製品やサービスの外観やデザインだけでなく、ユーザーが感じ、経験する全体的な状況や環境を考慮することが重要です。
「色と空を重ね合わせに認識する」というアナロジーを用いることで、CXデザインにおいて異なる要素が相互に影響し合うことが示唆されます。顧客の感情や期待は、視覚的なデザインだけでなく、そのデザインが表現する情報やメッセージに影響を与えます。したがって、デザイナーやマーケターは、非視覚的な要素を適切に捉え、それを視覚的な要素に反映させることが重要です。