デザインとは
デザインは、目的を持って計画的に形作られたものを指す幅広い概念です。一般的には、美しさや視覚的な要素を強調する場合もありますが、デザインは単に見た目の装飾や表面的な要素だけではありません。
デザインは、機能性、使いやすさ、効率性、意味や価値の伝達、ユーザーエクスペリエンスの向上など、さまざまな要素を組み合わせて、具体的な目的やニーズに対応する解決策を創り出すプロセスです。
製品やサービスの形状や構造、インタラクションのデザイン、ビジュアルデザイン、グラフィックデザイン、ウェブデザイン、パッケージデザイン、空間デザインなど、さまざまな分野で展開されます。
これらは単なる美的要素の追求だけでなく、問題解決やユーザーのニーズを満たすことを目指しています。デザインのプロセスには観察、研究、アイデアの発想、プロトタイピング、テストなどが含まれ、ユーザーや利害関係者の参加やフィードバックを取り入れることも重要です。
総合的に言えば、デザインは機能性、形状、コミュニケーション、エクスペリエンスなどの要素を統合し、意図された目的を達成するためのプロセスや方法論を指します。
ビジネスとデザイン
ビジネスシーンにおけるデザインの領域は、視覚的なアウトプットを伴うものから抽象度の高いものまで多岐に渡ります。プロダクトデザインや空間デザイン、グラフィックデザインは、具体的な形やビジュアルにおいてデザインが表現される領域です。一方、事業デザインや組織デザインなどは、ビジネス全体や組織の仕組み、プロセス、戦略などをデザインするより抽象的な領域です。
他にも、最近のバズワードであるデジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術を活用して業務の再デザインを行い、組織やビジネスの変革を促す取り組みを指します。業務フローのデザインによってデジタル化が進められ、効率性や生産性の向上、顧客体験の改善などが実現されます。
ここでは、具体的にデザインが用いられている領域について、代表的なものをご紹介します。
プロダクトデザイン
製品やデバイスの外観や機能性をデザインする領域です。AppleのiPhoneやTeslaの電気自動車など、優れたプロダクトデザインが成功を収めた事例があります。
グラフィックデザイン
ロゴデザイン、パッケージデザイン、広告デザインなど、視覚的なコミュニケーションをデザインする領域です。NikeやCoca-Colaなど、ブランドのアイデンティティを表現するためにグラフィックデザインが活用されています。
空間デザイン
商業施設やオフィス、住宅などの空間をデザインする領域です。Apple Storeの店舗デザインやGoogleのオフィスデザインは、空間デザインの優れた事例として知られています。
UX/UIデザイン
ユーザーエクスペリエンス（UX）デザインとユーザーインターフェース（UI）デザインは、デジタル製品やウェブサイトの使いやすさや魅力を向上させるための領域です。例えば、Googleの検索エンジンやAirbnbの予約プラットフォームは、優れたUX/UIデザインが特徴です。
このように、抽象度の高いレベルのアイデアを具体的な形や行動としてアウトプットしていく場面で、デザインが用いられている事がわかります。
不可視領域をデザインする
次に、先ほど少しご紹介した、ユーザーエクスペリエンス（UX）デザインやサービスデザインなど、目に見えない領域をデザインする手法や考え方に焦点を当てます。
ユーザーエクスペリエンス（UX）デザインとサービスデザイン
ユーザーエクスペリエンス（UX）デザインは、製品やサービスのユーザーが直面する体験全体をデザインすることを目指します。ユーザーが製品やサービスをどのように感じ、使いやすさや満足感を得るかを考え、それに基づいてインタラクションや情報の配置、視覚デザインなどを最適化します。UXデザインはユーザー中心デザインのアプローチを取り、ユーザーのニーズや目標を理解し、それに合わせたエクスペリエンスを創出することを重視します。
サービスデザインは、サービス全体をデザインするための手法です。製品やサービス提供のプロセスや顧客接点を総合的に考え、顧客の体験や価値を最適化します。サービスデザインはマルチディシプリナリなアプローチであり、ビジネス戦略、プロセスデザイン、コミュニケーション、インタラクションデザインなどの要素を統合し、優れたサービス体験を提供するための設計を行います。
これらのデザイン手法は、ユーザーの満足度や快適性を向上させるだけでなく、ビジネスの競争力やブランド価値の向上にも貢献します。目に見えない領域のデザインを重視することで、ユーザーの心理や行動を深く理解し、総合的な体験を創造することが可能になります。
つながりをデザインする
ユーザーエクスペリエンス（UX）デザインやサービスデザインの特徴の一つは、個別の具体的なアウトプットだけでなく、全体のつながりをデザインの対象にすることです。
これらのデザイン手法では、単に製品やサービスの一部分をデザインするだけでなく、全体のエコシステムやユーザーの体験全体を考慮します。例えば、ユーザーエクスペリエンスデザインでは、ユーザーが製品やサービスを触れるだけでなく、購入前後のプロセスやサポート体制、ブランドのコミュニケーションなど、全体的なつながりをデザインします。同様に、サービスデザインでは、サービス提供の各ステージや関係するステークホルダー、デジタルとオフラインの接点など、全体のつながりをデザインの対象とします。
この全体のつながりをデザインの対象にすることによって、ユーザーがより一貫したエクスペリエンスを得ることができます。また、ビジネスの視点からも、製品やサービスのパフォーマンスや効果を最大化するために必要な要素を包括的に考慮できます。
したがって、ユーザーエクスペリエンスデザインやサービスデザインは、個別のアウトプットだけでなく、全体のつながりや相互関係をデザインすることに特化しています。それによって、より総合的な体験やビジネス価値の向上を実現することが可能となります。
デザイナーとは何者か
ここで少し確度を変えて、デザインの歴史的な変遷から、デザイナーの役割やスキル、デザイナーの役割が変わっていく現代のデザイン環境について探求します。また、AI時代におけるデザイナーの存在意義についても考えてみましょう。
デザイナーの仕事は、歴史の中で進化してきました。以下に、デザイナーの仕事が過去にどのように成り立ってきたかについての概要を示します。
古代建築や工芸品、美術の時代
デザイナーと定義されていたわけではありませんが、デザイナー的な仕事は、古代から存在していました。工芸品や美術作品の制作、、あるいは建築において、デザイナーは美的な要素や機能性を考慮しながら作品を創り出しました。古代エジプトや古代ギリシャ、ルネサンス期など、芸術家や職人が建築家やデザイナーの役割を果たしてきました。
ルネサンス期では、ミケランジェロ・ブオナローティやレオナルド・ダ・ヴィンチなどが該当しますね。
産業革命とインダストリアルデザインの誕生
産業革命以降、18世紀から19世紀にかけての工業化の進展は、デザインの領域にも大きな変化をもたらしました。この時期には、工業製品や建築物のデザインにおいて機能性、製造性、美的要素が重視されるようになりました。
工業化によって大量生産が可能になったことで、製品のデザインには製造性や組み立てやすさなどが考慮されるようになりました。製品の形状や材料、使い勝手などがデザイナーによって検討され、大量生産に適したデザインが提案されました。これがインダストリアルデザインの概念の生まれであり、工業製品のデザインにおいては機能性と美的要素の両方が求められるようになりました。
新たな建築の潮流
同様に、建築の分野でも工業化の影響が見られました。建築様式も変化し、インターナショナリズムやモダニズムといった新しい潮流が生まれました。これらの潮流では、合理性、機能性、美的要素が統合された建築デザインが追求されました。建築家は材料や構造を適切に活用し、新しい形式や空間を創造することで、現代的な建築の実現を目指しました。
ヴァルター・グロピウスをはじめとするバウハウス学派、ル・コルビュジェ、レイモンド・ローウィ、バックミンスター・フラーなど多くの建築家・プロダクトデザイナーが活躍しました。
18世紀から19世紀にかけての工業化の進展は、デザインの考え方やアプローチに大きな影響を与えました。製品や建築において機能性、製造性、美的要素のバランスを追求する姿勢は、その後のデザインの発展にも繋がっています。
グラフィックデザインの台頭
20世紀に入り、印刷技術の進化とマスメディアの普及により、グラフィックデザインが注目を浴びました。広告、ポスター、本のカバーデザインなど、視覚的なメディアのデザインが重要視されました。デザイナーは情報の伝達や視覚的な魅力を考慮しながら、デザインの制作に取り組みました。
この時代には、新しい芸術運動やデザインスタイルが登場し、視覚的なメディアのデザインに革新的なアプローチが導入されました。
例えばアールヌーボーとアールデコは、ともに20世紀初頭にヨーロッパで興った美術・デザインの運動です。これらの運動は、芸術やデザインにおける新しいスタイルやアプローチを提案し、時代の美意識や社会の変化を反映していました。
アールヌーボーは、職人技術や手工芸品の復興、自然との調和を重視しました。一方、アールデコは、都市的で近代的な要素を強調し、工業化や科学技術の進歩によってもたらされる新しい世界への関心が反映されました。
20世紀初頭の様々なデザイン運動
また、アーツアンドクラフツ運動、モダンデザインやロシア構成主義なども、20世紀初頭に登場した重要なデザイン運動です。
これらの運動は、幾何学的な形状や簡潔なデザイン、視覚的な効果を追求しました。グラフィックデザインにおいては、情報の明瞭さ、視覚的な説得力、シンプルさが重視されました。
これらの美術運動やデザインスタイルは、グラフィックデザインの発展に大きく寄与しました。視覚的な魅力と情報の伝達を組み合わせたデザインの制作が求められるようになり、グラフィックデザイナーはメディアの多様なプロジェクトに携わるようになりました。
デジタル時代の到来
20世紀末から21世紀にかけて、デジタル技術の進化とインターネットの普及により、デザイナーの仕事はさらに多様化しました。ウェブデザイン、ユーザーエクスペリエンス（UX）デザイン、モバイルアプリケーションデザインなど、デジタル領域でのデザインが重要となりました。
また、デザイナーの役割も変化しました。単なる美的な要素を提供するだけでなく、ユーザーのニーズを理解し、問題解決のためのデザインを提供することが求められるようになりました。デザイナーはビジネスやユーザーエクスペリエンスの視点を持ちながら、創造性やデザイン思考を活かして新しい価値を生み出す役割を果たしています。
高度情報化社会とデザイナー
ちなみに、私がデザイナーとしてのキャリアをスタートしたのは1996年、いまでは当たり前ですがフルデジタルのワーフクローを持ったグラフィックデザインの会社でした。当時、DTPが本格化したばかりで、一般にはアナログのデザイン会社が多かった時代。コンピューターを使ったデザインとして、グラフィックだけではなく3Dのモデリングやアニメーション、いわゆるマルチメディアコンテンツなども手がけており、Webデザインは惣明期でした。
その頃からデジタルがもたらす高度な情報化が急速に発展し、デザイナーに対してより幅広い視点やスキル、知識が求められるようになりました。しかし本質的には、ユーザーのニーズやビジネスの目標を理解し、問題解決のためのデザインを提供するという役割は変わっていません。
デザイナーの目には何が映っているか
デザイナーがビジネスやユーザーエクスペリエンスの視点を持つことは、デザインの効果的な活用や成果の最大化につながります。ビジネスの目的や戦略を理解し、それに合わせてデザインを計画・実施することで、ユーザーにとって魅力的で使いやすい製品やサービスを提供することが可能になります。
一方で、デザインが分業化され、特定の要素や装飾的な要素に焦点を当てたデザインも存在しています。これらのデザインは、単純な視覚的な魅力を追求することに終始し、全体のコンテキストや目的との一致を考慮しない場合もあります。
市場の広がりによってデザイナーの役割は多様化しており、デザインの目的や要件に応じて異なるアプローチやスタイルが求めらているのでしょう。
デザイナーが果たしてきた役割とは
ただし、歴史的に見ても、効果的なデザインとは常にユーザーのニーズやビジネスの目標と調和し、問題解決の一環として位置付けられるものです。
デザイナーの本質的な役割のひとつは、問題解決です。デザインは単なる美的な要素を追求するだけでなく、課題や課題に対するニーズを理解し、それに対して最適な解決策を提案することを目指します。
デザイナーは美的な観点だけでなく、機能性、使いやすさ、効率性、持続可能性など、さまざまな要素を総合的に考慮しながらデザインを行います。問題解決のためのデザインは、ユーザーの生活やビジネスの価値を向上させるだけでなく、社会的な課題の解決や豊かさにも寄与してきたと考えられます。例えば家電製品による家事労働の軽減や、SDGsなどのソーシャルデザインなどが挙げられるでしょう。
デザイナーとは、常に問題解決の視点を持ち、創造性と実用性を融合させながら、より良い未来を創り出すために活動している人の事を指す、とも言えるかもしれません。
Ai時代のデザイナーについて
AIがデザイナーにとって単なるツールや助けとなる場合もあります。AIがルーチンな作業を自動化し、時間を節約することで、デザイナーはより多くの時間をクリエイティブな思考や戦略的な仕事に費やすことができます。そして、AIが提供するツールやデータ分析の結果を活用し、より深い洞察に基づいたデザインを創造することも可能です。
ただし、AIがデザインの創造性や感性を完全に代替することは難しいと考えられています。デザインは人間の独自の視点や感性に基づいて行われる創造的な活動であり、それには直感や思考プロセスが重要な役割を果たします。
AIはデザイナーをサポートするツールとして活用される一方で、デザイナー自身のクリエイティブな能力や洞察力が求められる領域においては、AIには及ばない独自の価値が存在すると言えます。
また、AIの進化によって一部のデザイン業務が自動化されることで、一部のデザイナーの仕事が影響を受ける可能性もあります。AIに限った話ではありませんが、新たな技術や領域が出現することで、デザイン領域における人間の役割や需要も変化していくと考えられます。デザイナーがAIと共存し、AIが提供するツールやデータを活用しながら、自身のクリエイティブな能力や人間性を発揮することが求められるでしょう。
デザイナーは構想し、可視化し、言語化する
デザイナーがアイデアや構想を具体的な形にするためは、構想力、可視化能力、言語化スキルという重要なスキルが求められます。構想すること、可視化すること、言語化すること、これらの3つの軸は、デザインプロセスの異なる側面を反映しており、相互に関連しながらも独自の役割を果たしています。以下に、それぞれのスキルとデザインプロセスの概要をまとめます。
構想
デザインの構想は、アイデアやコンセプトの形成に関連しています。この段階では、デザイナーは問題を把握し、目標や目的を明確にします。構想の過程では、調査、インスピレーションの収集、ブレインストーミング、アイデアの練り上げなどが含まれます。デザイナーは、問題の本質を理解し、クリエイティブな解決策を考え出すために、様々な観点から情報を集め、洞察を得ます。
可視化
デザインの可視化は、アイデアやコンセプトを具体的な形に変換するプロセスです。デザイナーは、手書きスケッチ、デジタルツール、モデリングなどを使用して、アイデアを視覚的な表現に変換します。可視化には、デザインの要素や構造の設計、配色や形状の選択、プロトタイプの作成などが含まれます。このプロセスによって、アイデアが具体化され、デザインの方向性が明確になります。
言語化
デザインの言語化は、アイデアやコンセプトを言葉や文章によって表現するプロセスです。デザイナーは、デザインの目的や意図、コンセプトの背後にあるストーリーを説明するために、言葉を使います。言語化には、プレゼンテーションやコミュニケーションスキルが重要です。デザイナーは、クライアントやチームメンバーとの対話や議論を通じて、デザインの意図を伝え、フィードバックを受けることができます。
構想はアイデアの形成と方向性の確立に関与し、可視化はアイデアの具現化と視覚的な表現に関与し、言語化はアイデアの伝達とコミュニケーションに関与します。デザインプロセスにおいて、これらの軸をバランス良く組み合わせることで、効果的なデザインの創造とコミュニケーションが実現されます
プロトタイピングについて
プロトタイピングは、アイデアや構想を実際の形に近づける試作品やモックアップを作成することです。プロトタイプを作ることによって、デザイナーはアイデアの妥当性や実用性を評価し、改善点を見つけることができます。また、プロトタイプはユーザーとの共同作業やフィードバックを促し、最終的なデザインの方向性を決定する際にも有用です。
すでに確立された技術やプロセスを使用する場合、プロトタイピングの必要性は低くなります。これは既存のソリューションやベストプラクティスが存在し、それらを適用することで問題解決が可能な場合です。
しかし、新しいアイデアや独自のソリューションを提案する場合や、複雑な問題に対処する場合には、プロトタイピングの手法が重要となります。プロトタイプを作成することで、アイデアの検証や問題の特定、改善のための反復が可能となります。プロトタイピングは、アイデアの具体化やユーザーとの共同作業を通じて洞察を得る手段として、デザイナーにとって貴重なツールとなります。
視覚化とプロトタイピングは、デザイナーと他の関係者とのコミュニケーションを支援し、共通の理解を深める助けとなります。
デザイナーは視覚化とプロトタイピングのスキルを駆使しながら、問題解決に向けた創造的なアイデアを形にし、より良い未来を創り出す役割を果たします。