顧客(Customers)
顧客は事業活動の中心的な要素です。3C分析では、顧客のニーズ、要望、行動パターン、嗜好などを詳細に分析します。顧客の認識を高めることで、製品やサービスの提供に対する理解を深め、市場への適切な対応策を見つけることができます。
競合他社(Competitors)
顧客を取り合う競合の存在を見極めることは、自社の位置を把握し、差別化ポイントや競争力を見出すために不可欠です。競合他社の製品やサービス、価格、マーケティング戦略、ビジネスモデルなどを詳細に調査することで、市場での競合優位性を確保するための戦略を立てることができます。
自社(Company)
孫子の兵法にもあるように、まず己を知ることは重要です。自社の強みと弱みを理解することは、自社の戦略的なポジショニングに影響を与えます。自社のリソース、能力、ブランド価値、市場シェア、財務状況などを分析することで、市場での競争力を高めるための施策を検討します。
勝利条件を導き出す3C分析
3C分析の目的は、ユーザーベネフィット(顧客のニーズを満たすこと)と差別的優位点(競合他社との差別化)を明確にすることにあります。それにより、ターゲットセグメントに対して競争上の優位性を持つ戦略を策定することができます。
まずはユーザーベネフィットと差別的優位点について、詳しく説明します。
ユーザーベネフィットとは
製品やサービスを利用する顧客が得ることができる具体的な利益や付加価値のことをユーザーベネフィットと言います。日本語ではあまり馴染みがない言葉で、よく使われるメリットと混同されていますが、違いを整理して理解しておきましょう。顧客が自社の製品やサービスを選ぶ理由は、そのユーザーベネフィットによって決定されることが多いです。
ユーザーベネフィットの考え方
ユーザーベネフィットの特徴として以下の点が挙げられます。
顧客中心の視点:ユーザーベネフィットは、顧客のニーズや要望に対してどれだけ応えることができるかが重要です。顧客の視点を重視して提供される利益です。
具体的で明確:ユーザーベネフィットは抽象的な概念ではなく、具体的なメリットや特長です。顧客が直接享受できる具体的な価値を示す必要があります。
例えば、スマートフォンを購入する顧客にとってのユーザーベネフィットは、高性能なカメラによる高画質の写真撮影、高速なプロセッサによる快適な動作、長時間のバッテリー持続などが挙げられます。これらのユーザーベネフィットに惹かれることで、顧客はそのスマートフォンを選択することになります。
ユーザーベネフィットとメリットの違い
ユーザーベネフィットとメリットは、関連する概念ではありますが異なる点もあります。
メリットは、一般的にはプロダクトやサービスの提供者が顧客に提供する利益や良い点を示す言葉です。メリットは製品の特徴や機能を強調する傾向があるのに対し、ユーザーベネフィットは製品やサービスを利用することによって顧客がどのような利益を享受できるかを具体的に示す点が異なります。ユーザーベネフィットは、顧客にとっての直接的な利益や価値を強調することに焦点を当てたものです。
例えば、あるスマートフォンのメリットとして、「高性能なカメラ」という特長が挙げられますが、それが顧客にもたらすユーザーベネフィットは、「鮮明な写真が撮れる」という具体的な利益です。つまり、メリットは提供者側の視点での利点を示すのに対し、ユーザーベネフィットは顧客側の視点での利点を示すという違いがあります。
差別的優位点とは
自社の優位性や他社との差別化という表現もされます。
差別的優位点(Differentiation Advantage)は、自社の製品やサービスが競合他社と比較して顕著に異なり、顧客にとって特別で魅力的な価値を提供することで、競争上の優位性を確立することを指します。
この差別的優位点は、顧客にとって他社の製品やサービスとは違う点を強調し、ブランドイメージを構築し、市場での差別化を図ることが目的です。
優位性を生み出す要因の代表的なものを挙げてみます。
機能優位
顧客は製品やサービスが自分のニーズを満たすかどうかを評価し、機能優位がある場合にはその製品やサービスを選択する傾向があります。例えば、特定の製品が他社にはない特別な機能を持っていたり、サービスが他社よりも使いやすいインターフェースを提供している場合などが挙げられます。
価格優位
顧客は製品やサービスの価格を比較し、コストパフォーマンスが高い場合にはその製品やサービスを選択することがあります。価格優位は、価格が顧客にとって重要な選択要因である場合に特に効果的ですが、ただし低価格競争に陥るリスクもあるため慎重に運用する必要があります。
ブランド優位
顧客はブランドの信頼性やイメージを重視し、ブランド優位がある場合にはそのブランドの製品やサービスを選択することがあります。ブランド優位を持つことで、顧客のロイヤルティを高め、競合他社に対する差別化を図ることができます。
また、市場シェアや営業・マーケティングのリソースの面からも差別的優位性を築くことができます。
市場シェア
自社の市場シェアが高い場合、企業は大規模な生産や購買力の恩恵を享受することができます。これにより、コスト削減が可能となり、価格競争力を強化することができます。また、広告やマーケティング活動の効果も高まり、ブランド認知度を向上させることができます。
営業・マーケティングのリソース
競合に対して営業やマーケティングのリソースが充実している場合、企業はより効果的なプロモーションや販売活動を展開することができます。適切なターゲティングや顧客のニーズを理解し、効果的なコミュニケーションを行うことで、顧客の関心を引きつけ、購買意欲を高めることができます。また、顧客サービスやアフターサポートの充実も顧客満足度を高める要因となります。
ネットワーク効果
市場で先行者利益を得ることで、ネットワーク効果を活用することも差別的優位性を生み出す要素です。特定のサービスやプラットフォームが多くのユーザーに利用されるようになると、新たなユーザーを引き寄せることができます。例えば、ソーシャルメディアやオンラインプラットフォームなどがネットワーク効果を持つ例です。
他にも、ユーザーにとっての価値を生み出す事ができる差別化の取り組みをご紹介します。
ローカライゼーション
市場ごとの文化やニーズに合わせたローカライゼーションを行うことで、地域の顧客に対してより適切な製品やサービスを提供することができます。ローカルなニーズを理解し、それに応えることで、顧客の共感を得ることができます。
テクノロジーとイノベーション
テクノロジーとイノベーションを活用することで、製品やサービスに先進的な機能や価値を加えることができます。新しい技術を取り入れることで、市場における競争上の優位性を確立し、顧客の興味を引きます。
社会的責任
企業が社会的責任を果たす姿勢を示すことは、顧客にとって重要な要素となっています。環境への配慮や社会貢献活動など、企業の社会的な取り組みに共感する顧客が増えています。
差別的優位点を確立するためには、顧客のニーズを理解し、市場調査や顧客フィードバックを活用して競合他社との差異を見つけることが重要です。また、製品やサービスの独自性を強化するために、研究開発やイノベーション、ブランディング戦略の改善などに投資することも必要です。明確な優位性を持つことで、顧客の注目を集め、長期的な競争上の優位性を確立し、事業成長を促進することができます。
3C分析の効果を高める視点
市場での勝利条件を見いだすのが3C分析の主な目的ですが、他にも考慮すべき要素や見方がありますので、簡単にご紹介します。
ユーザーベネフィットの拡大
ユーザーベネフィットを見極める際に、ターゲットセグメントの既存のニーズだけでなく、潜在的なニーズも考慮することが重要です。時折、顧客は自分のニーズに気づいていない場合があります。したがって、市場調査や顧客とのコミュニケーションを通じて、潜在的なニーズを特定し、それらに対してもユーザーベネフィットを提供することができるか検討することが重要です。
差別的優位点の持続性
市場で選ばれるには競合他社との差異を確立し、競争上の優位性を獲得することが重要ですが、その優位性が持続的かどうかを考慮する必要があります。市場は常に変化しており、競合他社も改善や新製品の導入を行います。そのため、優位性が長期間にわたって持続できるかどうかを考慮し、戦略の持続性を確保する必要があります。
ビジネスの独自性
3C分析は、顧客と競合他社の分析を行うだけでなく、自社のビジネスモデルや企業文化などの独自性を理解するのにも役立ちます。自社の独自性を強化し、他社とは異なる魅力的な要素を持つことで、顧客との結びつきを強化し、競争上の優位性を築くことができます。
これらの要素を考慮しながら、3C分析をより深く行うことで、より戦略的な洞察を得ることができます。顧客の本当のニーズを理解し、それに適切に対応することで、競争力のある市場で成功するための戦略を立案できるでしょう。
3C分析のプロセス
3C分析と平行して、4P分析、4C分析、SWOT分析、STP分析などを行うと、より効果的です。これらの分析は、3C分析に先立ち、自社や市場の理解を深めるための重要なステップとなります。
データ収集と整理
まず、事前の情報収集が重要なステップとなります。
以下のような情報が対象です。
顧客情報
自社のターゲット顧客に関する情報を収集します。顧客のニーズ、要求、好み、行動パターン、購買意欲などを理解することで、競合優位性を創出するための戦略を立案することができます。
既存の顧客データベースやWEBサイトへのアクセスデータを活用するほか、SNSのモニタリング、アンケート調査やインタビューなどが主な手段です。
競合他社情報
競合する他社の製品やサービス、価格、マーケティング戦略、顧客対応などに関する情報を収集します。の強みや弱み、差別化ポイント、市場での地位を把握することで、自社の位置を理解することができます。
WEBサイトの調査やソーシャルメディアのモニタリング、WEBの競合分析ツール、ニュースソースとプレスリリースなどから情報を収集します。
自社の顧客に競合についての意見を聞くことや、業界団体、市場調査会社のレポートなども活用できます。
消費者のトレンドと市場動向
市場でのトレンドや消費者の行動変化に関する情報を収集します。消費者のニーズや要求は常に変化しており、市場動向を把握することで、適切な戦略を立案することができます。
市場調査会社や業界団体が提供するレポートを参照したり、インターネットやソーシャルメディアのモニタリング、業界関連のニュースや報道が主な情報源となります。小売店などを視察することも、市場動向を把握する手がかりになります。
大きな調査プロジェクトであれば、アンケート調査やフォーカスグループディスカッションも利用されます。
自社の内部情報
自社の製品やサービス、ブランドイメージ、販売チャネル、マーケティング活動、財務状況などの内部情報を収集します。市場における自社の強みや弱み、リソースの有効活用、改善点を把握することができます。
現在のマーケティング戦略、成果、顧客フィードバック、商品の売り上げ構成比や財務状況情報などを収集しておきます。
顧客分析(Customers)
顧客の行動やニーズをより深く理解することで、効果的なマーケティング戦略を立案することができます。収集したデータを利用して顧客の分析を行います。以下の様な分析が一般的です。
RFM分析
Recency(最近の購買)、Frequency(購買頻度)、Monetary(購買金額)の3つの指標を用いて顧客をセグメント化するRFM分析。顧客の購買履歴に基づいて、優れた顧客や再活性化の可能性が高い顧客を特定するのに役立ちます。
顧客ライフサイクル分析
購買行動のライフサイクルに応じて、顧客をアクティブな顧客、潜在顧客、ロイヤル顧客などのグループに分類する手法です。ライフサイクルに応じたマーケティング戦略を展開するために用いられます。
セグメンテーション
前回の記事で解説したSTP分析の第一ステップです。市場を異なるセグメントに分け、それぞれの顧客セグメントの特性やニーズを理解する手法です。デモグラフィック、地理的、行動的、心理的な要因などを元にセグメントを定義し、ターゲティングとポジショニングに役立てます。
顧客満足(推奨)度調査
アンケートを用いて満足度調査を行い、サービスや製品に対する評価や改善点を把握する手法です。顧客の意見を取り入れて製品やサービスの改善を行い、顧客満足度を向上させます。
満足度ではなく推奨度を指標化して調査するNPS調査は、事業成果と相関する顧客の意見を聞く手段として有効です。
顧客の行動分析
ウェブサイトのアクセスデータや購買行動データを分析して、顧客の行動パターンや興味を把握します。顧客のニーズに合わせたカスタマイズやターゲティングに活用されます。
競合他社分析(Competitors)
次に、競合他社の分析を行います。競合他社の製品やサービス、価格設定、マーケティング戦略、ブランドイメージなどを調査します。競合他社の強みと弱みを把握し、差別化の機会を見つけます。
分析フレームワークは多岐にわたりますが、4P/4Cなど扱いやすいものをご紹介します。
4P分析
競合他社の製品(Product)、価格(Price)、販売促進(Promotion)、流通チャネル(Place)の4つの要素を評価する手法です。これにより、自社の製品や価格戦略が競合他社と比較してどのような位置にあるかを把握することができます。
4C分析
4C分析はCustomer value(顧客価値)、Cost(コスト)、Convenience(便益)、Communication(コミュニケーション)の4つの要素を評価します。4P分析の視点を企業目線から顧客目線に転換したものなので、4C分析とセットで行うのが良いでしょう。
製品マトリックス分析
自社と競合他社の製品・サービスを複数の要素に基づいて比較する手法です。製品の機能、性能、価格、デザインなどの要素について競合他社と比較し、差別化のポイントを見つけるのに役立ちます。
マーケティングコミュニケーション分析
競合他社のマーケティングコミュニケーション戦略や広告活動を分析する手法です。競合他社のメッセージや広告媒体、ターゲット層に焦点を当て、自社のコミュニケーション戦略を改善するのに役立ちます。
自社分析(Company)
SWOT分析
Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの観点から競合他社を分析する手法です。自社の強みと弱みを把握し、市場の機会と脅威を理解することで、競合優位性を創出するための戦略を立案するのに役立ちます。
7Sモデル
7Sモデルは、組織を7つの要素に分類して評価する手法です。戦略(Strategy)、組織(Structure)、システム(Systems)、共有価値(Shared Values)、スキル(Skills)、スタッフ(Staff)、スタイル(Style)が含まれます。これにより、組織の調和と効率を高めることができます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業の活動を一連の価値創造活動として捉える手法です。原材料調達から製造、販売、顧客サポートまでの各プロセスを評価し、コスト削減や付加価値の向上を図ります。
BCGマトリクス
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の成長-シェア行列(BCGマトリクス)は、ビジネスポートフォリオの評価に使用されるツールで、成長率と市場シェアを軸にして製品や事業の戦略的な位置づけを把握します。スター、金のなる木、問題児、負け犬の4つのカテゴリに分類されます。
ユーザーベネフィットと差別的優位点の特定
顧客と競合他社の分析を基に、主にSTP分析を用いてユーザーベネフィットを特定します。ターゲットセグメントのニーズを満たすために、どのような価値を提供できるかを明確にします。さらに、競合他社との差別化ポイントを見つけ、自社の差別的優位性を確立します。
ターゲティング
特定の市場セグメントや顧客層に焦点を絞って、自社の製品やサービスを提供することがターゲティングです。ターゲティングを行うことで、より明確な顧客ニーズや要求を理解し、それに応じたユーザーベネフィットを特定することができます。ターゲティングによって、製品やサービスが特定の顧客層にとって魅力的であるかどうかを評価し、効果的なマーケティング戦略を立案することが可能です。
ポジショニング
ターゲットしたセグメント内で競合他社との差別化を図り、自社の製品やサービスを顧客に対して特別であることを認知させるための戦略です。差別的な優位点を強調し、ユーザーベネフィットを際立たせることで、競合他社との競争に勝つための位置づけを確立します。ポジショニングを成功させることで、顧客に対して独自性や付加価値を提供し、顧客の心に響く製品やサービスを提供することができます。
3Cフレームワークへのマッピング
STP分析で特定したターゲットセグメントに向けたマーケティング戦略を検討し、市場での競争優位性を獲得するための施策を策定します。
3C分析に至る前に、4P分析、SWOT分析、STP分析などでほぼ結論が出てくることは一般的です。これらの分析は、自社や市場の理解を深めるために重要なステップとして役立ちます。しかし、それらの分析を行った後に3C分析を行うことは意味があります。
例えば、4P分析は自社のマーケティングミックスに焦点を当てていますが、3C分析は顧客と競合他社との関係を重視します。SWOT分析は自社の強みと弱み、機会と脅威を把握することに役立ちますが、3C分析はそれらを顧客と競合他社の観点から分析します。
3C分析にマッピングすることで、以下のような意味があります
顧客の視点から見た競合他社
競合他社分析を行った後、3C分析で競合他社の強みや弱みを顧客のニーズと関連付けることができます。顧客が他社の製品やサービスを選択する理由を把握することで、自社の差別的優位性を明確にすることができます。
競合他社の視点から見た自社の強み
自社の強みを把握した後、3C分析でそれが競合他社に対してどのような差別化を生み出すかを考察できます。自社の強みが市場での競争上の優位性となるかを理解することができます。
市場での競争状況の把握
3C分析によって、市場での競争状況や競合他社との差別化ポイントが明確になります。これにより、より効果的なマーケティング戦略を立案することができます。
顧客ニーズへの適合
顧客分析と組み合わせることで、顧客のニーズと要望に合った製品やサービスを提供することができます。ターゲットの顧客にとって有益な価値を提供することで、ロイヤルティを高めることができます。