プランニング

コンセプトメイクの技術|基礎知識と考案の要点

コンセプトとは、抽象的なアイデアや概念を指します。何かを具体化して実現する際の指針や枠組みとなるものであり、ブランディングやマーケティング、技術開発、デザイン、アートなどさまざまな分野で広く使われる言葉です。
本稿では、コンセプトについての理解を深めるための一般的な知識と、コンセプトメイキングの手順について概要を解説します。

ビジネスの中にある多様なコンセプト

ビジネスの中には多様なコンセプトが存在します。以下に、いくつかの一般的なビジネスコンセプトをピックアップしてみます。

ビジネスコンセプト

ビジネスコンセプトは、新しい事業やサービスのアイデアを示すものです。これは、特定のニーズや問題を解決するために提供される製品やサービスの独自性や独創性に基づいています。ビジネスコンセプトは、企業がその存在意義を示し、競合他社との差別化を図る上で非常に重要です。

ブランドコンセプト

ブランドコンセプトは、ブランドのアイデンティティや価値観を表現する枠組みです。これはブランドが顧客に提供する体験や感情といった要素を包括しています。ブランドコンセプトはブランドイメージの構築やコンシューマーとのコネクション強化に役立ちます。

マーケティングコンセプト

マーケティングコンセプトは、商品やサービスを販売する際のアプローチや戦略の枠組みを指します。顧客のニーズや要望に合わせて商品やサービスを提供し、顧客満足度を重視するというアプローチが含まれます。マーケティングコンセプトは市場における競争力を強化するのに役立ちます。

デザインコンセプト

デザインコンセプトは、製品、サービス、空間などのデザインにおいて、そのコンセプチュアルな方向性やテーマ性を示すものです。デザイナーやクリエイターがデザインの方向性を明確にし、一貫性を持たせるためにデザインコンセプトを示すことが重要です。

開発コンセプト

製品やサービスの開発プロセスにおいて、開発の方向性や目標を示す基本的なアイデアや概念のことを指します。開発コンセプトは、製品やサービスの特長や差別化ポイント、顧客のニーズに対する解決策などを明確にし、開発の方針を設定する際の基本的な指針となります。

これらのコンセプトは、それぞれの分野でアイデアを具体化し、共通の理解を得るために使われます。重要なのは、コンセプトを明確にすることで、ビジネスの目標達成やブランドの構築、デザインの一貫性を図ることができる点です。

思考様式としてのコンセプト

ビジネスにおける思考様式やアプローチとしてのコンセプトも存在します。

これらのコンセプトは、特定の問題に対するアプローチや考え方を示し、ビジネスの成功に向けた方向性を提供します。以下にいくつかの例について説明します。

リーンスタートアップ

新しいビジネスやプロダクトを最小限のリソースで迅速に立ち上げ、効果的に成長させるアプローチがリーンスタートアップです。仮説検証、MVP(最小限の実行可能製品)の開発、顧客とのフィードバックの収集などを重視します。リーンスタートアップのコンセプトは、失敗を最小限に抑えつつ、市場のニーズを正確に把握し、迅速な改善と成長を目指す思考様式を表します。

デザイン思考

例えばデザイン思考は、デザイナーがデザインの手法をビジネスや問題解決に応用するアプローチです。顧客の視点に立ち、深い洞察を得ることに重点を置き、創造的なアイデアや解決策を見つけることを目指します。デザイン思考のコンセプトは、イノベーションや顧客中心のアプローチを強調し、創造性を重視する思考様式を表します。

グロースハック

データドリブンなマーケティングと実験を活用して、効率的にビジネスの成長を促進するアプローチです。従来のマーケティング手法に加え、テストと改善を繰り返すことで、効果的な成長戦略を見つけます。グロースハックのコンセプトは、迅速な成長と持続可能なビジネスの構築に向けたデータ重視の思考様式を表します。

これらのコンセプトは、ビジネスにおいて問題解決やイノベーションを推進する際に役立ちます。ビジネス環境が変化し、競争が激化する中で、これらの思考様式を取り入れることで、より効果的に成果を上げることができるでしょう。

コンセプトの役割と重要性

ビジネスにおけるコンセプトが果たす役割や重要性は多岐にわたります。以下に、主な役割と重要性について、いくつか挙げてみます。

方向性を示す役割

コンセプトは、プロジェクトやビジネスの方向性を明確に示す役割を果たします。目標やビジョンを定義し、チームや関係者に共通の理解を提供することで、効果的な意思決定と行動の調整が可能となります。

差別化と競争力の向上

独自性のあるコンセプトは、他社との差別化を図り、競合環境での競争力を高める助けになります。顧客や消費者に対して独自の価値を提供することで、ブランドや商品の認知度を向上させることができます。

意思統一とコミュニケーションの支援

コンセプトは、チームや組織内のメンバーに対して共通の言語や理解を提供し、意思統一とコミュニケーションの円滑化をサポートします。メンバーが同じ目標に向かって協力するためには、コンセプトを理解し、共有することが重要です。

クリエイティビティとアイデアの促進

コンセプトは、クリエイティビティを促進する役割を果たします。アイデアを具体化し、目標に向けたアプローチを提供することで、チームや関係者がより創造的な解決策を見つける手助けとなります。

リスクの最小化

コンセプトは、プロジェクトやビジネスの計画段階で検討し、評価することで、リスクを最小限に抑えることに役立ちます。明確なコンセプトを持つことで、失敗を回避し、効率的にリソースを活用することができます。

顧客満足度の向上

適切なコンセプトは、顧客や消費者に対して価値を提供し、満足度を向上させる助けになります。顧客がブランドや商品のコンセプトに共感し、その特長を理解することで、購買意欲が高まることがあります。

これらの役割と重要性により、コンセプトはビジネスの成功やプロジェクトの成果に大きく寄与します。しっかりとしたコンセプトを持つことで、組織やプロジェクトの成果を最大化することが可能です。

コンセプトをつくるには

コンセプトメイキングには一般的な手順があります。以下に、コンセプトメイキングの一般的な手順を示しますが、プロジェクトの性質や目的によって適切な手順をカスタマイズすることも重要です。

プロジェクトの定義と目的の確認

まず最初に、対象のプロジェクトを明確に定義し、目的を明確化します。どのような問題を解決するか、何を達成したいか、どのような価値を提供するかなどを明確にします。

調査とリサーチ

関連する情報や市場動向を調査し、競合他社の活動や顧客のニーズを分析します。既存の成功事例や失敗事例も把握することで、より具体的なコンセプトを立案する上での参考になります。

ブレインストーミングやアイデアの発散

メンバーや関係者と共にブレインストーミングを行い、様々なアイデアを出し合います。どんなアイデアも歓迎し、自由な発想を重視します。これにより、多様性や創造性を尊重したコンセプトが生まれる可能性が高まります。

コンセプトの絞り込み

ブレインストーミングで出たアイデアの中から、実現可能性やプロジェクトの目的に合致するものを選びます。必要に応じて、優先順位をつけたり、複数のアイデアを組み合わせて新たなコンセプトを形成することもあります。

コンセプトの具体化

選ばれたコンセプトを詳細に具体化します。これには、目標、ターゲットオーディエンス、提供する価値、差別化ポイント、メッセージなどを明確にする作業が含まれます。また、ビジュアルやデザインの要素も考慮し、コンセプトの表現と言語化を検討します。

プロトタイピングやテスト

具体化されたコンセプトに基づいて、プロトタイプを制作し、テストを行います。フィードバックを収集し、必要に応じて改善や修正を行い、最終的なコンセプトを完成させます。

コンセプトの発表と実行

最終的なコンセプトが承認されたら、それを関係者やチームに発表し、実行に移します。適切なコミュニケーションや計画を立てて、コンセプトを実際のビジネスやプロジェクトに反映させます。

これらの手順を適切に実行することで、より具体的で効果的なコンセプトを生み出すことができるでしょう。また、プロジェクトに関わる関係者とのコラボレーションやフィードバックの収集を大切にすることも重要です。

クリエイティブなコンセプトを創り出す3つのポイント

一般知識とは異なりますが、私がコンセプトを考えるときに大切にしているポイントを、参考までにご提供しておきます。戦略立案からクリエイティブのディレクション、プレゼンにおいてもコンセプトは最重要です。

クリエイティブなコンセプトを創り出す技法として私が重視しているのは、競争環境と差別化/ステークホルダー間の共感/共有しやすいワーディングです。

競争環境と差別化

コンセプトは、競合他社と差別化できるものでなければなりません。そのためには、競争環境をしっかりと理解し、自社ならではの強みや優位性を明確にする必要があります。また、ターゲット顧客のニーズや課題を把握し、それらを解決できるようなコンセプトを考え出すことも重要です。戦略としての妥当性があり、ユニークであり、実行可能である事が肝要です。

ステークホルダー間の共感

コンセプトは、ステークホルダー全員に共感してもらうことが大切です。そのためには、経営層や事業部門、マーケティング部門、開発部門など、関係者全員の意見を反映し、納得感を持ってもらえるようなコンセプトを考え出します。作り手の独りよがりにならないように注意を払う必要があります。

共有しやすいワーディング

コンセプトは、誰にでもわかりやすく伝えられるようなワーディングで表現する事が大切です。そのためには、専門用語や難しい言葉を避け、具体的なイメージやエピソードなどを交えて説明することが効果的です。簡潔であり、かつ深い意味まで共有できるように言葉を選ぶのには苦労もありますが、なるべく多くの人が納得できるまでやりきる覚悟で臨みます。

コンセプトを構成するエコシステムを知る

コンセプトは単体で成り立つものではなく、様々な要素や関連事項と結びついてエコシステム(生態系)を形成します。コンセプトメイキングにおいては、そのコンセプトが他のコンセプトや関連事項とどのように影響し合うかを把握することが非常に重要です。

ひとつのコンセプトは、以下のような要素に影響を受けると考えられます。

ビジネスモデル

コンセプトはビジネスモデルに影響を与えることがあります。例えば、新しいコンセプトを導入することで、既存のビジネスモデルを変革し、新たな収益源や顧客セグメントを獲得する可能性があります。

マーケティング戦略

コンセプトは企業のマーケティング戦略に大きな影響を及ぼします。コンセプトが顧客に対してどのような価値を提供するかを考慮し、それに基づいて効果的なプロモーションや広告を展開する必要があります。

ブランドアイデンティティ

コンセプトはブランドのアイデンティティと密接に関連しています。ブランドコンセプトを明確にすることで、ブランドの差別化や顧客の忠誠心を高めることができます。

ユーザーエクスペリエンス

CXやUXデザインにおいて、コンセプトは顧客の体験に直接的な影響を与えます。コンセプトが顧客のニーズや要望に合致しているかどうかを考慮し、体験を向上させるデザインを行う必要があります。

イノベーション

コンセプトはイノベーションの原動力となります。新しいコンセプトを採用することで、既存の業界や市場に変革をもたらす可能性があります。

これらの要素はお互いに密接に結びつき合い、コンセプトが持つ影響が多面的に現れることを意味します。コンセプトメイキングにおいては、これらの相互関係を理解し、トータルでのビジネスへのインパクトを把握することが重要です。その上で、より戦略的かつ総合的なアプローチをとることで、より有益なコンセプトを形成することができるでしょう。

コンセプト・エコシステムの例

例えば、CXデザインは一般的に特定のプロジェクトや商品、サービスの体験を改善するために行われるアプローチです。この顧客中心のアプローチがCXデザインのコンセプトとも言えます。また、体験の一貫性や共感、イノベーションなどのコンセプトも内包しています。

一方で、CXデザインの前提となる重要な要素として、ビジョンとミッションがあります。ビジョンとミッションは組織全体の方向性や目的を示すものでありCXデザインのコンセプトと相互に関係します。

このように、ひとつのコンセプトが他のコンセプトや関連事項とどのように影響されていくかを把握することも、コンセプトメイクの上で重要になります。

CXデザインを例として、少し深掘りしてみましょう。

CXデザインとビジョン、ミッション

組織がCXデザインを理解するためには、実現を目指すビジョンとミッションを理解することが重要です。組織のビジョンが示す未来像や組織のアイデンティティは、CXデザインの目標や方向性を決定する際の重要な指針となります。CXデザインの成果がビジョンに適合しているかどうかを確認することで、顧客体験が組織の目指す方向に寄与しているかを評価できます。

また、組織のミッションが示す目的や主要な活動は、CXデザインの実践においても重要な参考となります。ミッションは組織が何を成し遂げようとしているかを示すため、顧客体験の向上にどのようなアプローチを取るべきかを定める際に役立ちます。

CXデザインがビジョンとミッションの前提になると同時に、ビジョンとミッションもCXデザインの成果をフィードバックする役割を果たします。組織全体の方向性を理解し、目的を達成するための具体的な取り組みを行うことで、CXデザインの意義や重要性をより明確にし、組織の全体的な成果に寄与することができるでしょう。

CXデザインに内包されるコンセプト

CXデザインにおいて、顧客にとって魅力的で意義のある体験を提供するためには、いくつかの重要なコンセプトが考慮される必要があります。以下に、CXデザインにおいて必要なコンセプトをいくつか挙げてみます。

ユーザー中心のコンセプト

顧客のニーズや要望を理解し、その中心に立ったデザインを行うことが重要です。ユーザー中心のコンセプトでは、顧客が直面する問題や課題を解決し、使いやすく満足度の高い体験を提供することを目指します。

一貫性と統一性のコンセプト

CXデザインでは、顧客が企業やブランドとの接点全体で一貫性を感じることが大切です。ブランドのアイデンティティや価値観を表現する統一されたコンセプトを持つことで、顧客が安心感や信頼性を得ることができます。

エンパシーと感情へのアプローチ

顧客の感情に訴えるコンセプトを持つことで、顧客の経験が深く印象づけられる可能性があります。エンパシーを持ち、顧客の感情に寄り添ったデザインやメッセージが、顧客との強い結びつきを生むことができます。

イノベーションと進化のコンセプト

顧客のニーズや市場環境は変化していきます。CXデザインでは、イノベーションを促進し、常に進化する姿勢を持つことが重要です。新しいテクノロジーやトレンドを取り入れ、顧客の期待に応えることが求められます。

これらのコンセプトは、CXデザインにおいて顧客の満足度向上やブランドの競争力強化に向けた基盤となります。CXデザインは継続的なプロセスであり、これらのコンセプトを意識しながら常に改善と最適化を行うことで、顧客との関係を強化し、ビジネスの成果を高めることができます。

Summary

コンセプトはビジネスの意思決定や共同作業において重要な役割を果たします。ビジネスコンセプト、ブランドコンセプト、マーケティングコンセプト、デザインコンセプトなど、さまざまなコンセプトがビジネスの方向性やアプローチを示し、目標達成に向けた指針となります。

 

コンセプトメイキングのスキルはますます求められるものとなっています。ビジネス環境の変化や競争の激化により、創造性や顧客中心のアプローチが重要視される中で、コンセプトを効果的に形成し、具体化するスキルが重要となります。

 

また、コンセプトをつくる際にはビジネスのエコシステムを考慮することが重要です。コンセプトは単体で成り立つものではなく、ビジネスモデルやマーケティング戦略、ブランドアイデンティティ、ユーザーエクスペリエンスなど、様々な要素と結びついてエコシステムを形成します。コンセプトメイキングにおいては、これらの相互関係を理解し、総合的なアプローチを取ることが重要です。

 

コンセプトメイキングは、ビジネスの成果を向上させる上で不可欠なプロセスとなります。ビジネスにおいてコンセプトを効果的に活用し、ビジョンやミッションを具体化することで、より競争力のある企業やブランドを構築することができるでしょう。