感情設計とは
耳慣れない言葉ですが、感情設計とはユーザーが製品やサービスを使う際に経験する感情に焦点を当て、それを主体的にデザインするアプローチです。感情設計は、商品の品質や機能だけでなく、感情的な体験を通じて顧客を惹きつけ、ロイヤルティを高めることを目指します。
WEB上での情報探索活動は、単に情報を得るだけでなく、感情的な満足や充足感を求めて行われると考えられます。
感情的な満足は、ユーザー体験を深化させる要因の一つです。ウェブ上の情報探索は、情報のみならず感情的な充足感をもたらすものであり、この点をUXデザインに考慮することは重要です。
情報探索の中にある感情
ユーザーがウェブサイトやアプリを訪れ、コンテンツを検索したり閲覧したりする際には、以下のような感情的な要因が影響を与えます。
好奇心と楽しみ
新しい情報やコンテンツを発見することによって、ユーザーは好奇心を刺激されます。新しいアイデアや知識を学ぶことで、楽しさや興奮を感じることがあります。
達成感
情報探索が成功すると、ユーザーは達成感や満足感を感じることがあります。目的の情報を見つけることで、自己満足や成功体験を得ることができます。
安心感と信頼
高品質な情報や信頼性のある情報源を見つけることによって、ユーザーは安心感や信頼感を得ることができます。信頼性のある情報が提供されると、ユーザーは満足感を感じます。
共感と共感
ユーザーが関心を持つトピックやテーマに関連する情報を見つけると、共感を覚えることがあります。共感を得る情報は、ユーザーとの感情的な共鳴を生み出します。
エンターテインメントと楽しさ
ウェブ上のコンテンツは、ユーザーにエンターテインメントや楽しさを提供することもあります。面白いビデオ、クリエイティブなストーリー、ユニークなコンテンツは、ユーザーに楽しみをもたらします。
自己表現とアイデンティティ
情報探索活動は、ユーザーの興味やアイデンティティの一環として行われることがあります。特定のトピックやコミュニティに関連する情報を見つけることで、自己表現やアイデンティティの一環として感情的な満足を得ることがあります。
情報探索をかき立てる8つのモチベーション
Googleが研究した情報探索のモチベーションは、非常によく参照される情報です。
現代的な情報探索行動は「さぐる」探索と「かためる」探索を行ったり来たり繰り返す、バタフライサーキットという概念で表現されます。
バタフライサーキットと呼ばれる情報探索行動の中では、選択肢を探ろうとしているモードと選択肢を固めようとしているモードの2つに分類することができるとしています。
「さぐる」選択肢を探ろうとしているモード
気晴らしさせて(Distraction)
ユーザーは気分転換や娯楽を求めて情報を探します。これは遊び心を刺激するモチベーションであり、新鮮な情報やコンテンツに興味を持ちます。
学ばせて(Learning)
ユーザーは新しい知識やスキルを学びたいというモチベーションで情報を探します。適切な情報にアクセスすることで、自己成長を実現することができます。
みんなの教えて(Teaching)
ユーザーは他人に知識や情報を共有することを楽しみ、教えることに満足感を感じます。共有や教育の側面が強調されるモチベーションです。
ニンマリさせて(Amusement)
ユーザーは楽しい体験や娯楽を追求するモチベーションで情報を探します。楽しむことによってポジティブな感情を得ることを重視します。
選択肢を固めようとしているモード
納得させて(Conviction)
ユーザーは自分の意見や信念を裏付ける情報を探し、自分の立場を強化しようとします。自身の信じることを支持する情報に焦点を当てます。
解決させて(Resolution)
ユーザーは問題や疑問を解決するための情報を求めるモチベーションで情報を探します。具体的な課題への解決策やアドバイスに関心を持ちます。
心づもりさせて(Preparation)
ユーザーは将来の行動や計画に備えるための情報を探します。ネガティブな情報なども含め期待値を調整します。がっかりしないよう、安心感や準備感を得ることが目的です。
答え合わせさせて(Validation)
ユーザーは自分の判断や意見が正しいかどうかを確認するための情報を探し、自己評価を行います。自分の判断を確かめることに重点を置きます。
これらのモチベーションは、人々が情報探索を行う際の心理的な動機を示しており、UXデザインやコンテンツの企画に活用することができます。
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感情設計の期待効果
この感情設計というアプローチは、ユーザーが求める感情を理解し、デザインに組み込むことで、購買意思決定に影響力を与えようとするアイデアです。
また、体験価値が向上することでブランド価値の向上や顧客ロイヤルティの構築にも寄与します。
感情設計によって創造される感情的なエクスペリエンスは、単なる機能やデザインだけでは達成できない強力な効果を生み出します。
エンゲージメントの向上
ポジティブな感情を醸成するデザイン要素やコンテンツは、ユーザーのエンゲージメントを高める助けになります。ユーザーが製品やサービスに関心を持ち、長く使い続ける可能性が増します。
ブランドロイヤルティの構築
感情的なつながりを持ったユーザーは、ブランドに対するロイヤルティを高める傾向があります。感情的な経験は、ユーザーが他の選択肢を考える前にブランドを選ぶ動機になります。
ユーザー満足度の向上
WEBサイトを通じてユーザーが感じる喜びや楽しさは、ユーザー満足度を向上させます。ユーザーが製品やサービスを使っていて楽しいと感じることが、ポジティブな体験を形成します。
口コミと共有の促進
ユーザーが感じたポジティブな感情や体験は、口コミやソーシャルメディアで共有される可能性が高まります。他の人々に自然な形で製品やサービスの価値が広がります。
競争優位性の強化
感情設計によって創造される独自の感情的な体験は、競合他社から差別化する要素となります。ユーザーが感情的な結びつきを感じるため、他の選択肢よりも優れた選択となります。
感情設計は悪用するとしっぺ返しを喰う
実は、感情設計が悪用される可能性があることは重要な考慮事項です。感情設計を誤った方法で利用すると、ユーザーを欺いたり、マニピュレーションしたりすることにつながり、ユーザーの信頼を損なったり、ユーザーエクスペリエンスを悪化させる可能性があります。
トリックやマニピュレーション
感情設計を用いてユーザーの感情を操作し、意図的に望まない行動を誘導する試みは、ユーザーに対する不信感や不快感を引き起こす可能性があります。
情報の隠蔽
ユーザーが望む情報を隠したり、誤解を招く情報を提供することは、信頼性を損ない、ユーザーの不満を引き起こす可能性があります。
過度な感情刺激
過度な感情刺激やセンセーショナルな内容を利用することは、ユーザーの感情をあおり立てるだけでなく、信頼性や尊重の欠如を示す可能性があります。
プライバシーの侵害
ユーザーの感情や個人情報を不適切に利用することは、プライバシーの侵害となり、ユーザーに対する信頼を損なう恐れがあります。
倫理的な配慮の欠如
ユーザーの感情や心理的な健康を考慮せずに、感情設計を行うことは、倫理的な問題を引き起こす可能性があります。
感情設計を取り入れる際の心構え
つまり感情設計を適切に活用するためには、倫理的な配慮とユーザーセンタードなアプローチが不可欠なのです。ユーザーの信頼を築き、良好なユーザーエクスペリエンスを提供することが最終的な目標となります。
以下のポイントを考慮することが重要です。
透明性と誠実さ
ユーザーに対して透明な情報を提供し、誤解を招かないようにすることが重要です。感情設計がどのように行われているかを明示的に伝えることが求められます。
倫理的なガイドライン
デザインやマーケティング活動における倫理的なガイドラインを確立し、感情設計の活用にあたっての基準を設定することが大切です。
ユーザーセンタードなアプローチ
ユーザーのニーズや感情を尊重し、ユーザーエクスペリエンスを向上させることを目指すことが重要です。感情設計は、ユーザーに価値を提供するための手段であるべきです。
感情設計の手順
それでは、感情設計の手順をみていきましょう。これらの手順を順次実行することで、感情設計を含むユーザーエクスペリエンスを改善するための基盤を構築できます。それぞれの手順は、ユーザーの感情とニーズを理解し、それに合わせたデザインを提供するための重要なステップです。
調査と理解
- ユーザーのニーズや課題に焦点を当てた調査を実施。
- ユーザーの感情、要求、行動パターンを理解するために、ユーザーインタビューやアンケート、競合分析を行う。
ペルソナの作成
- 調査結果を基に、ユーザーセグメントごとにペルソナを作成。
- ユーザーの属性、ニーズ、行動、感情などを具体的に描写し、共感できるペルソナを作成する。
エンパシーマップの作成
- ペルソナの視点から、感情や課題、環境などを理解するためにエンパシーマップを作成。
- ペルソナの行動、思考、感情、欲求などを整理し、デザインに反映する要素を明らかにする。
ユーザージャーニーマップの作成
- ユーザーが体験するプロセスをマッピングし、情報探索のモチベーションや感情の高まりや落ち着きなどを可視化するユーザージャーニーマップを作成。
- タッチポイントごとの感情やニーズを把握し、UXの改善ポイントを特定する。
コンテンツ企画/デザイン要素の決定
- ユーザージャーニーで特定した感情に合わせて、コンテンツやデザイン要素を企画。
- 色彩、テキスト、アニメーション、画像などを選択し、感情に訴えるデザインを構築する。
プロトタイプテスト
- 選定したデザイン要素を組み込んだプロトタイプを制作し、ユーザーにテストしてもらう。
- ユーザーの反応とフィードバックを収集し、感情的な効果や改善点を特定する。
関連要素との連続性の確認
- ユーザーエクスペリエンス全体にわたる感情の連続性を確認。
- ユーザージャーニー全体が一貫して感情を高める要素を持つことを確保する。
実施/データ分析と改善
- プロトタイプを実施し、ユーザーの感情的な反応や行動をデータとして収集。
- データを分析し、感情設計の効果を評価。必要に応じて改善を行い、ユーザーエクスペリエンスを進化させる。
感情設計の詳細フロー
全般的な設計フローの次は、詳細なフローです。とくにウェブページの場合は、広告や検索などの接触基点からモチベーションの描写を行っていきます。
例えば、旅行のためにスーツケース購入を考えているユーザーが、スーツケースレンタルの広告が気になってクリックしたとします。
この場合の心理フローを考えてみましょう。
この例では、ユーザーが広告からウェブページへ移行してから、スーツケースレンタルに対する心情の変化を描写しています。UXデザインの観点から、各段階でユーザーがどのような感情やニーズを持ち、それに合わせたコンテンツやデザインを提供するかを考慮することが重要です。
心理フローの描写例
広告のクリック|ん、スーツケースってレンタルできるのか?
ユーザーは旅行の計画をしており、スーツケースレンタルの広告に興味を持ち、クリックします。
興味と好奇心|レンタルってどうなの…?
ユーザーはクリックした先のランディングページで、スーツケースレンタルに関する情報を見つけます。新しいアイデアや便利なサービスに対する興味と好奇心が高まります。
情報の学習|メリット/デメリットは?
ユーザーはスーツケースレンタルのサービスや利点について詳しく学びます。料金や取り扱いスーツケースの種類、手続きに関する情報を読み込みます。
ベネフィットへの気づきとワクワク|これで良いかも!
ユーザーは自分で安いスーツケースを買うよりも、安価にハイグレードなスーツケースを利用できる事の利点に気づきます。ハイグレードなスーツケースを使うことにワクワクとした気持ちを抱きます。
魅力的な特典への反応|お、かなりお得じゃん…⁉
ユーザーが特別な特典や割引に気付いた場合、興奮や喜びを感じます。お得な情報に対してニンマリとした反応を示す可能性があります。
利用の検討と納得|安いスーツケース買っても邪魔だしな…
ユーザーは自身のニーズに合うかどうかを考えます。価格や利便性、保証事項などに納得感を持ちつつ、サービスを検討します。自前で購入したした場合のデメリットなどを思い浮かべ自己説得します。
期待値合わせと安心感|ちょ、まてよ。リスクが無いか調べておこう。
SNSや口コミ情報などで利用者の情報を探します。旅行中にスーツケースがしっかり届くことを確認し、安心感を得ます。自己評価を行い、スムーズな準備ができることを認識します。
問い合わせや申込み|利用はどうすれば良いのかな?
ユーザーは興味を持ち、具体的な行動に移るかもしれません。問い合わせフォームへの入力や実際のスーツケースの予約申込みを検討します。
消費者行動と心理の複雑さを考慮する
実際の消費者行動は非常に複雑で、一度に1つの特定の感情や行動に収束するわけではありません。
感情設計やUXデザインは、柔軟性を持ち、ユーザーがさまざまな情報や刺激にさらされながら複数の段階を経る過程を考慮することが重要です。
また、単純なモデルで感情設計を行うだけでなく、継続的な改善とユーザーフィードバックの統合も大切です。
より継続的かつ柔軟な感情設計のアプローチをいくつか考えてみましょう。
複数の感情の同居
1つのユーザー行動や段階で複数の感情が同居することは一般的です。ユーザーが複雑な感情を抱きながらも行動を進めることを想定し、感情の多様性を考慮することが重要です。
動的なコンテンツ提供
ユーザーがページ内を移動する過程で、感情に合わせたコンテンツを提供することで、ユーザーの興味を引き続けることが可能です。適切なタイミングで適切な情報を提供することが求められます。
分岐したUX設計
ユーザーが選択肢を変えたり、別のページに移動したりする場合を考慮し、異なる展開を予測してデザインすることが重要です。複数のシナリオを想定し、感情に合わせた展開を考えます。
データ分析と改善
ユーザー行動データを収集し、ユーザーがどのようなパスで移動するか、どのポイントで離脱するかを分析します。このデータを元に、感情設計やUXデザインを継続的に改善していきます。
個別のカスタマージャーニーの理解
各ユーザーのジャーニーが異なることを理解し、個々のユーザーがどのようなステップや情報を求めるかを分析/予測します。パーソナライズされたアプローチが有効です。