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泡沫化するウォンツ|ニーズ・ウォンツの変化と対応を考える

前回の記事との2回シリーズの2回目です。【前編】の「ニーズ、ウォンツ、デマンド|マーケティング用語の基礎をおさらい」では、ニーズ、ウォンツ、デマンドという用語と、態度変容の考え方やトリガーについて考察してきました。【後編】の本稿では、ニーズやウォンツが変化する様や、パルス消費など現代的な購買行動全体の変化について探求していきます。

ニーズとウォンツの変化を考慮する

次に、ニーズやウォンツの変容がどのように起こるかについて探求してみましょう。ニーズは欠乏感とも言えますが、喉が渇いた、おなかがすいた…のような生理的な欠乏だけではなく、楽しみたい、モテたい、自分らしさを表現したい、良い人間関係を築きたいなどの個人的、社会的な欲求もニーズです。

ニーズとウォンツは、個人的な、社会的な要因によって変化していきます。以下に、ニーズとウォンツの変容がどのように起こるかについて探求してみましょう。

時代や社会変化

例えば、時代や社会の変化は、人々の価値観や嗜好、生活スタイルに影響を与えます。社会の価値観や傾向が変化することで、人々のニーズやウォンツも変容します。例えば、健康や環境への関心の高まりや、ライフスタイルの多様化、女性の社会進出などの社会的な変化は、消費者のニーズやウォンツに反映されます。

技術の進歩と普及

技術の進歩も、ニーズとウォンツに大きな影響を与えます。新しい技術の導入やデジタル化の進展によって、人々の生活や消費行動が変化します。例えば、スマートフォンやインターネットの普及によって、情報の入手やオンラインショッピングが容易になり、消費者のウォンツや購買パターンが変化しました。

国や地域の文化

また、文化的な要素もニーズやウォンツに影響を与えます。地域の文化や民族性、宗教、風習などは、消費者の好みや嗜好に反映されることがあります。マーケティング活動は、文化的な要素を理解し、それに合わせた戦略やコミュニケーションを展開する必要があります。

より敏感に変化するデマンド

デマンドはニーズやウォンツよりも環境変化に敏感です。デマンドは市場全体の需要を指すため、個々の消費者のニーズやウォンツだけでなく、多くの要素や要因が影響を与えます。そのため、デマンドは比較的頻繁に変動する傾向があります。

先にご説明したように、ニーズやウォンツは消費者の個々の要求や欲求であり、それらがデマンドとして表れるためには、経済状況や競合状況、価格などの要素によって左右されます。

経済環境の影響

例えば、原料の不足や供給の制約により製品が品薄になった場合、消費者のニーズやウォンツは存在するものの、デマンドが限定的になる可能性があります。消費者が望んでいる商品やサービスが入手困難であれば、需要が満たされないため、デマンドは制約されるでしょう。

また、価格変動もデマンドに影響を与えます。商品やサービスの価格が上昇した場合、消費者は購買を控える傾向にあるかもしれません。特に、消費財や高額商品では価格変動がデマンドに大きな影響を及ぼすことがあります。

その他にも、為替レートの変動、競合他社の製品やサービスの提供状況、市場のトレンドや需要の変化などもデマンドに影響を与える要素です。これらの要素が変化することで、消費者のニーズやウォンツにも変動が生じ、それに伴ってデマンドも変化する可能性があります。

トレンドや社会環境の影響

また、トレンドや流行の変化、技術の進歩、社会的な変化などもデマンドに大きな影響を与える要素です。これらの要素が変化することで、消費者のニーズやウォンツも変動し、それに伴ってデマンドも変化します。

マーケティングの観点から見ると、デマンドの変化に敏感に対応することが重要です。マーケティング活動は市場の需要を予測し、それに合わせて製品やサービスの提供を調整する役割を果たします。需要の変動に対応するために、マーケティング戦略や販促活動の柔軟性や迅速な対応が求められます。

パルス型消費行動|泡沫のようにウォンツが出現し、消滅する

近年、インターネットやソーシャルメディアの普及により、情報の拡散や共有が容易になりました。これにより、新製品や人気商品、セールなどの情報が短期間で大量に伝播することが可能となりました。また、オンラインショッピングの普及やスマートフォンの利用の増加により、消費者が瞬時に商品やサービスを購入することができる環境が整いました。

このような状況の中、消費行動にも変化が見られています。Googleは大規模な定量小調査から、次の様なトレンドを見つけ出しています。

Think with Google「データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)」

1) 今、人々は買う瞬間まで知らなかった名前の商品を買うことに躊躇しなくなってきている
2) 今、人々は何かを買うためにお店や ECサイト に行く時点で、具体的にどの商品を買うかまだ決めていないことが多い
3) 今、人々は暇つぶしにスマホを眺めている時に、偶然知った商品をその場で買うことに躊躇しなくなってきている
現代の日本人にとって、24 時間すべてが買い物のタイミングであり、空き時間にスマホを操作しながら瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたいと思う商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせるという消費行動が広まっていることがわかります。
われわれはこのような行動を「パルス型消費行動」と呼び、従来のような、ある程度時間をかけて買いたい気持ちを醸成させる「ジャーニー型消費行動」とは区別すべきと考えました。注意しなければならないのは、これらの行動が、趣味的な商品に対する非日常的な買い物行動ではなく、日常的に消費する商品に対して行われている点です。その意味で、従来型の「衝動買い」とは一線を画した消費行動だと言えます。
https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/app-and-mobile/shoppersurvey2019-2/

この「パルス型消費行動」と表現された行動傾向は、大変注目されています。デジタルテクノロジーの進化と消費行動の変化により、従来型のマーケティングでは説明がつかない行動傾向が現れ、その中でも「パルス型消費行動」が注目を浴びるようになったと言えるでしょう。

以下にその特徴をいくつか挙げます。

突発的な購買行動

従来の「ジャーニー型消費行動」とは異なり、「なんとなくピンときたから」という理由で購買意欲が高まり、瞬発的に購買行動に移るという特徴を持つ消費行動が増えていると考えられます。このような行動は、特にデジタル環境やSNSの普及によって促進されています。

SNS上での情報共有や口コミの拡散は、消費者にとって容易にアクセスできる情報源となっています。なんとなく眺めていたSNS上で、興味深い商品や情報に偶然出会い、急に購買意欲が高まるケースが増えているというのは、実際に自分自身の中にもある傾向として理解できます。

このような状況では、消費者の興味や関心を引きつけるために、マーケティングや広告のアプローチも変化しています。特にインフルエンサーマーケティングやソーシャルメディア広告は、消費者の「なんとなくピンときた」瞬間に訴求力を持ち、購買意欲を高める効果があります。

特定の商品やサービスが一時的に注目を集め、急速に需要が増加する場合があります。これは、SNSやオンラインコミュニティで話題になったり、口コミやマーケティングキャンペーンによって拡散されたりすることが原因となることがあります。消費者は一過性の熱狂や興奮から、その商品やサービスを急いで購入する傾向が見られます。

ECサイトでカートに入れたのに、結局その商品を買わない

カートに入れた商品を最終的に購買しないという行動は、消費者の購買行動によく見られる特徴の一つです。このような行動を「カート放棄」と呼ぶこともあります。

ピンときた状態での購買意欲は一時的に高まるものの、実際に購買まで至らない場合、さまざまな要因が関与している可能性があります。例えば、考え直しや検討の余地、価格や割引条件による検討、必要性や合理性の再評価を、これまた急に思い立って購入を思いとどまるような場合があります。
「ピンときた状態」について、Googleはそれを直感センサーと呼んでいます。直感センサーは、「セーフティ」「フォーミー」「コストセーブ」「フォロー」「アドベンチャー」「パワーセーブ」の 6種類があるとしています。
急に購買行動をとる、カートに入れたのに買わないなどの購買意欲の増幅や減衰は、これらの直感センサーと関わっていると考えられます。

パルス型消費行動については、Googleの調査結果から提唱された概念として関心が高まっています。バタフライサーキットと8つの動機5つの探索行動パターン、などの概念は消費者行動の理解に貢献する重要な枠組みとなっています。
これらの研究成果を活用することで、企業やマーケターはより効果的なマーケティング戦略を展開し、消費者のニーズや行動に対応することができます。また、行動を形成する心理を知ることは、ビジュアルデザインを考える上でも重要な洞察と手がかりが得られるのです。興味深い研究成果が多数共有されていますので、また別の記事で取り上げていきたいと思います。

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カスタマージャーニーの現代的解釈|パルス型消費とCXデザイン

AI時代の消費行動

AIは大量のデータを解析し、消費者の嗜好や行動パターンを理解することができます。これにより、個々の消費者に適した情報やオファーを提供することができます。例えば、過去の検索履歴や購買履歴を分析して、関心のある商品やサービスを推薦したり、個別のニーズに合わせたオファーや割引を提示したりすることが可能です。

AIがもたらす変化の例

こうしたAIの存在は、消費者の購買行動にさまざまな変化をもたらす可能性があります。以下にいくつかのポイントを挙げてみます。

パーソナライズされた情報と推薦

AIによって個別の嗜好や好みを分析することができるため、消費者に対してよりパーソナライズされた情報や商品の推薦が可能になります。これにより、消費者は自分に合った商品やサービスを容易に見つけることができ、購買意欲が高まる可能性があります。

ソーシャルメディアと影響力

AIはソーシャルメディア上のデータを分析し、トレンドや社会的な流行を把握することができます。消費者はソーシャルメディアを通じて他の人々の意見や評価を知ることができ、これが購買行動に影響を与える場合があります。特に消費欲求の高い人々は、SNS上の流行や廃りに敏感であり、それに基づいてパルス消費に傾斜していくのかもしれません。

オンラインショッピングの利便性

AIはオンラインショッピングの利便性を向上させる役割も果たしています。商品の検索や比較、購入プロセスのスムーズさなどが向上し、消費者はより簡単に商品を入手することができます。多言語化なども利便性向上の一例でしょう、これにより、購買行動の幅が広がり、消費意欲が促進される可能性があります。

AIはマーケター/デザイナーを不要にするか

ただし、AIの影響は個人によって異なる場合もあります。一部の消費者はAIによる情報の提供や推薦に対して懐疑的な姿勢を持ち、個人の判断や経験に基づいて購買行動を行うことを好む場合もあります。

また、消費者の購買行動は多くの要素によって影響を受けるため、AIだけが全ての変化をもたらすわけではありません。価格、ブランドイメージ、商品の品質、口コミなども消費者の購買行動に影響を与える要素です。

AIは統計的な推論やデータ分析を基に情報を提供しますが、消費者の気持ちや感情を直接的に理解するわけではありません。AIは大量のデータを処理し、傾向やパターンを抽出することが得意ですが、それによって得られる情報は客観的なものであり、個々の消費者の個別の感情や心理状態を完全に捉えることはできません。

消費者の心理や感情を理解するためには、AIによるデータ分析に加えて、質的な調査や顧客インタビューなどの手法も重要です。消費者の声や意見を直接聞くことで、より深い理解が得られる可能性があります。

したがって、AIを活用したマーケティング戦略を構築する際には、AIが提供するデータと洞察を基にしつつも、人間の洞察と判断も組み合わせることが重要です。AIはツールとして活用されるべきであり、消費者の気持ちや感情を完全に代替するものではありません。

Summary

現代社会の変化は、マーケティング活動の結果とも言えます。マーケティングは、時代や社会の変化に対応し、顧客のニーズやウォンツに合わせた戦略を展開することで、需要の創出や顧客満足度の向上を図ります。マーケティング活動は、社会の変化や技術の進歩、文化的な要素を把握し、顧客とのつながりを強化するための重要な手段となっています。

 

ニーズとウォンツの理解に基づいて設計されたマーケティング戦略は、顧客の関心を引きつけ、需要を喚起し、競争力を高めることができます。また、顧客のニーズやウォンツが変化する場合には、マーケティング戦略も適切に変更・調整される必要があります。

 

マーケティングの目的は、顧客を創り出すだけでなく、長期的な顧客関係を構築し、顧客の満足度やロイヤルティを高めることにもあります。そのためには、顧客のニーズとウォンツに常に敏感であり、それに応じて戦略を展開することが重要です。