プランニング

ECサイトを立ち上げる前に知っておきたい、ECの事業環境

販路拡大のために、ECサイトは有効な手段です。しかしながら、ECサイトを立ち上げればすぐに成功…と、そう簡単にはいかないものです。今回は、EC事業を立ち上げる前に知っておくべき3つのこととして、現在のECをとりまく環境についてご紹介します。

なぜ低い、日本のEC化率

日本のEC化率は他の先進国に比べて比較的低いです。EC化率は一般的に、オンラインでの商品やサービスの購買比率を指し、国や地域によって異なります。

以下に、日本のEC化率が比較的低い理由のいくつかを挙げます。

少数派のオンラインショッピング文化

我々のようなデジタル系の住民には感じにくいのですが、日本では、物理店舗での買い物が一般的であり、店舗で商品を見たり手に取ったりすることが好まれます。オンラインショッピングはまだ比較的新しい文化であり、一部の若年層を中心に普及していますが、全体的な普及率はまだ低いです。

安心感と信頼性の重視

日本の消費者は、信頼性と安心感を重視します。実店舗では商品を直接確認できるため、品質やサイズの不安が少なくなります。一方、オンラインショッピングでは商品を実際に見ることができないため、商品の信頼性や返品・交換の手続きなどに対する不安が残ります。

配送と返品の課題

日本の地理的な特徴や人口密度の高さから、迅速な配送や返品手続きの煩雑さが課題となっています。また、一部の商品では配送料が高額になることもあり、購買意欲を抑える要因となっています。

銀行振込や代引きの利用

オンライン決済方法として、日本では銀行振込や代引きが一般的に利用されます。これらの方法は、一部の消費者にとっては利便性が低いと感じられる場合があり、オンラインショッピングのハードルとなっています。

ただし、近年はEC化率の向上に向けた取り組みや環境の整備が進んでおり、オンラインショッピングの普及が進んでいます。企業や政府がユーザーエクスペリエンスの向上やセキュリティ対策の強化に取り組んでいるため、EC化率は今後も上昇する可能性があります。

EC化が特に顕著な物販系4分野

経産省が2022年8月に発表した電子商取引に関する市場調査結果によると、日本のB-to-CにおけるECの市場規模は20兆6,950億円(2021年)、そのうち64%を物販系分野が占めており、市場規模は13兆2,865億円、EC化率は8,78%です。

EC化率は、電子商取引(EC)が占める比率を表す指標であり、オンライン上での商品やサービスの購入・販売がどれだけ行われているかを示します。具体的には、ECサイトやマーケットプレイスなどを通じて行われる取引額を全体の取引額で割った割合として計算されます。

ECの取引額÷全体の取引額×100=EC化率(%)

です。
したがって、高いEC化率は、デジタル化やオンラインビジネスの進展を示し、消費者のオンラインでの活動や企業のデジタル戦略の成熟度を反映します。

ここで、分野全体としてEC化率が高い物販系分野に話題を絞り、特にEC化率が高い4分野について内訳を見ていきましょう。

書籍・映像/音楽ソフト(EC化率46.20%)

これらの分野では、EC化率が高く、オンラインでの購買行動が一般的です。利便性の向上やデジタルコンテンツの普及により、消費者は簡単かつ迅速に書籍、映像、音楽ソフトを入手することができるようになりました。また、ストリーミングやダウンロードによるデジタルコンテンツの需要も増えており、これらの市場の拡大が見込まれています。

生活家電・AV機器・PC/周辺機器(EC化率38.13%)

消費者は比較サイトなどで製品を比較し、評価を確認してから購入することが一般的です。また、ECサイトではセールや割引キャンペーンなどの特典も提供されており、消費者はリーズナブルな価格で製品を入手することができます。EC市場の拡大やテクノロジーの進化により、生活家電、AV機器、PC/周辺機器の需要は増加傾向にあります。

生活雑貨・家具/インテリア(EC化率28.25%)

EC市場の成長とともに、オンライン上でのショッピング体験が充実しています。ECサイトやモバイルアプリは、商品の画像や説明、顧客レビューなどを提供し、消費者が自宅で商品を選び購入する際の不安を軽減しています。また、インテリアデザインのトレンドや季節のキャンペーンなど、消費者のインスピレーションを刺激する要素も重要な役割を果たしています。

衣類・服飾雑貨等(EC化率21.15%)

ファッション関連の商品は、ECサイトだけでなくSNS上の画像や動画などの視覚的な表現を利用して、消費者がトレンドに敏感にアイテムを選べるようなコミュニケーションを行っています。また、仮想試着技術や個別のスタイリングアドバイスなど、顧客エクスペリエンスを向上させるためのテクノロジーも活用されています。

これらの業界では、顧客のニーズや行動パターンの変化に合わせてEC化が進んでいます。COVID-19のパンデミックによって、オンラインショッピングの需要がさらに加速し、EC化の重要性がより一層高まりました。

その他物販の現状と未来

上記以外の分野では、化粧品・医薬品がEC化率7.5%程度、食品・飲料・酒類や、自動車/二輪パーツ類などはEC化率4%弱と、上位と比較すると低水準です。

商品特性上、手に取って確かめてたい、専門家のアドバイスが必要、配送や保管が難しいことなどがEC化を阻む要因と考えられますが、テクノロジーの進化や物流の改善により、これらの課題を克服する試みが進んでいます。

例えば、生鮮食品の配送や保管の技術革新、オンライン上での専門知識提供や相談窓口の拡充、動画による取り扱い方法のレクチャーなどにより、ECで購入するハードルは下がりつつあり、将来的には、これらの分野でもEC化率が向上する可能性があります。

EC化率とEC事業の成否

EC化率は、自社がECを収益化する上で重要な指標ですが、その単一の数値だけで判断することはできません。自社の特徴、競合状況、マーケティング戦略、商品の魅力、顧客のニーズなど、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。

業界の平均的なEC化率を参考にすることは一つの手段ですが、自社の独自性や戦略に応じて見込売上を評価する必要があります。例えば、既存の顧客基盤やブランド力を持つ企業は、市場シェア率や顧客ロイヤルティの観点から高いEC化率を達成する可能性があります。

したがって、EC化率は参考値として活用しつつも、自社の独自の要素や競合状況を分析し、戦略的な視点で見込売上を評価することが重要です。

ECサイトを取り巻く技術変化にも注目

技術変化のトピックとしては、ソーシャルメディアとの統合、モバイルコマースの成長、AIやAR/VRの導入、マーケットプレイスの拡大です。これらの変化を把握し、最新のテクノロジーを活用し、顧客体験(CX)を重視することが成功の鍵です。

まだ市場の導入期であるため、取り組む場合には柔軟性と試行錯誤的なアプローチも必要です。

ソーシャルメディアとの統合

ソーシャルメディアプラットフォーム(例: Facebook、Instagram、Pinterest)は、EC機能の統合やショッピング機能の強化に注力しています。顧客はソーシャルメディア上で商品を発見し、直接購入できるようになりました。ソーシャルメディア広告やインフルエンサーマーケティングを通じて、顧客とのエンゲージメントや売上を促進することができます。

モバイルコマースの成長

スマートフォンの普及により、モバイルコマースがますます重要になっています。BtoCの場合は、特に顕著で、スマートフォンやタブレットからのアクセスが7〜8割程度になっていると思います。

ECプラットフォームはモバイルフレンドリーなデザインや機能を提供し、顧客がモバイル端末から簡単に商品を閲覧し、購入できる環境を整えています。

AIとパーソナライゼーション

大規模なショッピングモールなどでは、人工知能(AI)の活用により、ECプラットフォームは顧客の購買履歴や行動データを分析し、パーソナライズされた情報を提供しています。顧客に合わせた商品のレコメンデーションやカスタマーサポートの自動化など、AI技術を活用することで顧客とのオンラインコミュニケーションを向上しています。

また、多言語対応などもAIにより進展し、越境ECの運用が容易になっています。

AR(拡張現実)とVR(仮想現実)の導入

まだまだ一般的ではないものの、ARとVR技術は、顧客によりリッチなショッピング体験を提供するために活用されています。

商品の仮想試着や店舗内のバーチャルツアーなど、よりインタラクティブな体験を通じて、購買意欲を高めることができます。

マーケットプレイスの成長

マーケットプレイス型のECプラットフォームは、複数の売り手と買い手を結びつけることで商品の多様性と選択肢を提供します。巨大なマーケットプレイスプラットフォーム、例えば Amazon、Alibaba、日本では楽天などの成長に加えて、特定のニッチ市場に特化したマーケットプレイスも増えてきています。

これらの変化は、顧客体験(CX)の向上、売上の増加、EC化率の向上、市場シェアの獲得など、ECプラットフォームの進化に大きな影響を与えています。ビジネスがECプラットフォームを活用する際には、これらの変化への対応を織り込んでおくことが重要です。

Summary

日本はEC化率がまだまだ低いため、ECサイトを立ち上げる前にはしっかりと計画をたてておく必要があります。
まず、どの程度の事業成長が期待できるか、業界EC化率やニーズを調査し、競争力を持つための戦略を立てることが重要です。
さらに、ソーシャルメディア統合やAI、AR/VRの活用など、顧客の行動変化に関わる最新の技術トレンドに目を向けておきましょう。
対面のコミュニケーションがないECの世界では、顧客エクスペリエンスを向上させる要素を取り入れることが事業成長の鍵です。商品認知から購入後のサポートまで、顧客の体験やコミュニケーションをデザインして、EC事業への挑戦を成功させましょう。